GDS021_ITday Japan 2022_人類は今、直面する危機をジョブズに学んで克服できるか? 開催報告

2022年12月10日(土)、「Global Digicon Salon 021 ITday Japan 2022〜人類は今、直面する危機をジョブズに学んで克服できるか?」を開催しました。
こちらが当日の記録映像です。↓
 
「IT Day」とは「IT革命記念日」のことです。1968年12月9日にダグラス・エンゲルバートが「The Mother of All Demos(すべてのデモの母)/The DEMO」と呼ばれる歴史的なデモンストレーション、「人々の知性を高め、人々の協力を促進し、人類が直面する深刻な問題を解決するためのNLS(oN-Line System・オンラインシステム)」というデモンストレーションを行い、それがIT革命の出発点となったったことを記念して、2018年にインターネット商用化50周年・The DEMO50周年を記念した「IT25・50」シンポジウムを開催して以来、毎年この時期に開催しています
冒頭、この1年の世界動向を振り返りましたが、2022年は地球温暖化、コロナ禍に加えて、ロシアがウクライナに侵攻したことで、エネルギー危機、電力危機、食糧危機に核兵器を使った第三次世界大戦の危機まで加わって、人類存続の危機は高まる一方の1年でした。
こうした中、今年の「ITday Japan 2022」では、「世界を変えた男 スティーブ・ジョブズに学んで、直面する危機を克服できないか?」という観点からディスカッションしました。
初めに、モデレーターの髙木利弘が、自著『ジョブズ伝説〜アートとコンピュータを融合した男』新版( https://amzn.to/3UIiULS )でまとめた、ジョブズの発想法「禅システム思考(Zen System Thinking)」と、それを実践するための「CAS理論(Communication Amplifier System theory)」を紹介。社会をコミュニケーション・システムとして捉え、国家、軍隊、メディア、企業、学校、家庭という社会装置はいずれもCAS(Communication Amplifier System/コミュニケーション増幅システム)であり、それぞれのコミュニケーションのあり方(ゼロ・一方向・双方向)を分析することで、解決策をシンプルに導き出せるようになると述べました。戦争、暴力、殺人、命令、強制、いじめ、虐待、詐欺等々は、いずれも一方向コミュニケーションであり、それらが様々な社会問題の温床となっている。一方、人々を和解させ、協力を促進するのは、共感、感動といった双方向コミュニケーションであり、ジョブズは、それらを最大限に増幅するCAS、すなわちパーソナルコンピュータ、スマートフォンタブレットを次々と開発し、世界を変えました。サッカーW杯が示したように、人々の共感、感動、同期を増幅すれば、人々の心はひとつになり、それが経済活性化の原動力となる。私たちは、マネーがなければ何もできないという資本主義のドグマに洗脳されていますが、大事なのは共感を増やすということであり、「資本主義から共感主義へ」、これが未来のIT市民社会実現の鍵ではないか? ジョン・レノンは「ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)」と歌いましたが、すべての戦争を終結できる唯一の方法は、世界中の人々が心をひとつにし、力を合わせて一斉に「戦争反対」の声を上げることなのではないかと述べました。
続いて、ジョブズビル・ゲイツダグラス・エンゲルバートアラン・ケイをはじめ数多くのITリーダーたちを撮影してきた写真家・メディアプロデューサーの小平尚典さんが、龍安寺の石庭をバックにそれぞれの撮影秘話を語りました。『ジョブズ伝説』新版の表紙を飾ったジョブズの写真は、1989年、日本でネクスト発表会をした時のもので、その眼光の鋭さは永遠に見る者すべてに強烈なインパクトを与えます。ゲイツの写真では、インタビュアーは孫正義だったこと、そして、インタビューを終えるとすぐに商談に入ったという歴史的なエピソードを紹介しました。
デジタルハリウッド大学大学院教授の三淵啓自さんは、アルビン・トフラーの『第三の波』を引用して、イノベーションが社会構造や人々の意識を変える。トフラーは、第一の波である農業革命、第二の波である産業革命を経て、第三の波である情報革命では、持続可能な社会へのパラダイムシフトが求められると指摘していた。情報革命は、デジタル革命、インターネット革命、ソーシャル革命を経てバーチャル革命の段階に入りつつあり、3Dインタースペース、互換デバイス、物質化技術、ロボティックスなどにより、仮想から現実体験へというイノベーションが起きている。ジョブズが生きていたら、それをどう社会に還元するかを考えたのではないかといったことを語りました。
大谷和利さんは、ジョブズから学ぶとすればスタンフォード大学卒業祝賀スピーチがいいでしょうと述べ、「未来はどうなるかわからない。だから点と点をつなげる」「ビジョンと現実の間を埋める不断の努力」「子どもの才能をつぶさない家庭教育の重要性」「見聞を広げて組み合わせを考える大切さ」「大型コンピュータによる情報の占有化vs.パーソナルコンピュータによる情報の民主化」「パーソナルからインターパーソナルへ」「戦略を倣い戦術を考える」といった学びのポイントを挙げました。
林信行さんは、iPodと同時期のソニー製品を対比し、ちゃんとビジョンをデザインし人々を魅了した製品と、ただ単に機能を詰め込んだだけで魅力のない製品の違いを説明。ジョブズは、有名な「Think Different」の詞の中で一行だけ、「They pushed the human race forward(彼らは人類を前進させた)」を加えてくれと言ったが、こうしたビジョンなしに、ただ便利だからとか儲かるからとかという考え方がデストピアにつながっている。マクルーハンは、芸術は社会的・精神的危険の兆候をいち早く発見でき余裕をもってそれに対処する準備ができるようにしてくれる危険早期発見装置であると言ったが、今のような危機的状況にこそ、芸術が重要な役割を果たすのではないかといった話をしました。